裸の王様~孤高のデブ~
僕の通っていた中学校には、以前も書いたとおりデブ四天王(D4)がいたが(デブとデブの話)、それに属さず孤高を貫く一人のデブがいた。
彼の名は「よしお」
白い肌に細い目。そして、生粋のゲーマーだ。幼少の頃から単3電池が4本も必要な、あの黄色い画面の初代ゲームボーイを巧みに操っていた。
僕とは幼稚園からの付き合いで、中学時代の部活(卓球部)も一緒だった。
何故か彼は体育や部活動のとき、体操服の胸の部分を引っ張り汗を拭う癖があったため、その部分が常に黒ずんでいた。
僕らは胸のその部分を「ブラックホール」と呼び、たびたび主将の青木さんが吸い込まれていたのを覚えている。
初夏。僕らは衣替えを終え、白いワイシャツに黒い学生ズボンで通学していた。
その日、僕はよしおと二人で下校しようとしていたが、登校時には降っていなかったはずの雨が降りだしていた。
僕は傘を持ってきていたのだが、よしおは持ってきていなかった。
「一緒に入る?」
「いや、いいよ」
実際一緒に入ったところで、彼の巨体はほとんど傘の外に出てしまうだろうことは一目瞭然であったが、こういうものは得てして社交辞令である。
僕は傘をさして歩き、よしおは雨に打たれながら歩いた。
歩いて10分程経った頃だろうか。僕は異変に気が付いた。
横を歩いていたよしおが突然、上半身裸になっていたのである。
(え??なんで??!急に??!)
僕は突然の事態に動揺したが、よく見ると襟と袖口がある。
僕はようやく理解した。
ワイシャツが雨で透けて素肌にぴったりと貼りついた結果、裸に見えていたのである。
パッと見は本当に裸だ。ただの変態である。
すれ違う人々が、よしおを見て一瞬ビクッとする。
無理もない。雨の中を傘もささず、一見上裸のデブが歩いてくるのだ。そりゃあビビる。
よしおはそんなことは気にせず、恥じらう様子もなく堂々と歩き続けている。
その姿はまるで裸の王様だ。
「おれは馬鹿には見えない服を着ている。裸に見えるやつが馬鹿なのだ。」
そう言わんばかりの勢いだ。
もう完全にあほだ。
しかし1つだけ学んだことがある。
ワイシャツの下には肌着を着た方がいい。
おわり