デブとデブの話
僕が中学生だった頃の出来事なのだが、今でも忘れられないことがある。
それは確か授業の間の短い休憩時間に起こった。
当時、僕が通っていた藤枝中学校の同学年には、四人ほどの肥満児(BMI30越え)がおり、漫画“花より男子”で言うところのF4、いやD4的な存在感で他を圧倒していた。
そのD4の二大巨頭である、
“せいちゃん(BMI35)”と“KAZUSHI(BMI38)”
そして僕を含む取り巻きの連中数人(平均BMI19)が廊下でダベっていた時のことである。
何の脈絡もなく、突然せいちゃんがKAZUSHIに対して
「このデブ!!!」
と言い放った。
それを聞いて、僕らは皆一様に思った。
(確かに…)
しかし、その理不尽な発言に対しKAZUSHIも言い返す。
「お前だってデブじゃねぇかよ!!!」
それを聞いて、僕らは皆一様に思った。
(確かに!)
更にせいちゃんが反論した。
「デブから見てもデブはデブなんだよ!!!!」
この発言を耳にした瞬間、僕の全身に強い衝撃が走ったのを覚えている。
デブから見てもデブはデブ…
デブから見たらデブは相対的に痩せて見える。そんなこと無論あるわけがない。
当然と言えば当然の事にも関わらず、初めて知る事実であるかのように新鮮だった。
こういうのをコロンブスの卵と言うのだろうか。
相対性理論によれば、光速はどの観測者から見ても不変だという。
誰から見ても光の速さは一定。BMI値も一定。物体の静止エネルギーはE=mc^2。
つまり、誰から見てもデブはデブなのだ。
しかしながら、「デブから見てもデブはデブ」であることを明言したデブが歴史上他にいただろうか。
この事実に気付かずに志半ばで倒れ死んでいった人間がどれ程いただろう。
自分の事を棚に上げるという言葉など、この発言の前には何の意味も為さない。
事実を事実のまま言って何が悪い、言いたいことがあれば言う、改革に必要なら傷付く事も辞さない。
そういった幕末志士的な思想さえ感じた。
廊下で起きたこの革命について、覚えている者は僕以外にいないかもしれない。
しかし、この出来事が僕の人生に多大なる影響を与えた事は確かだ。
ありがとうせいちゃん。ありがとうKAZUSHI。
そして、最後に僕は言いたい。
「デブとかそういう言葉はあんまり使わない方がいいよ!」
おわり
【参考】BMI値について